凡夫の手記

日々、感じた思ったことなど

26歳彼女なし=年齢に初めて彼女ができた話

天井に取り付けられた豆電球が滲んでいた。

幼いころから一人で涙したとき慰めてくれたのは豆電球だった。涙を蓄えてそれを見ると万華鏡のようにキラキラとして、無駄に速くなった鼓動を落ち着ける間、気を紛らわせた。

 

初めて人を好きになった。この年になって初恋か...と自嘲に思えた。そして、初恋は実らないことが常だ。

 

それは初めて現場に配属されたときの職場の人だった。院卒の自分より年下のくせに先輩というギャップがまず最高だった。とはいうものの別に最初から好きになったわけではなかった。ただ一緒に仕事を教えてもらううちに彼女の仕事へのプロフェッショナルとしての信念や、その一方の愚痴交じりの打たれ弱さ、なにより嫌いなものは嫌いという正直さと人を慮る優しさに徐々に惹かれていった。パソコンに向かいながら隣の席同士で業務のこと、他愛ないことを話しながら少しずつ相手の情報を聞きだそうとした。秘密主義な彼女はなかなかプライベートのことは話さなかったが、ぽろっと好きなアーティストを聞いたらその日のうちにYoutubeで検索した。彼女にも彼氏がいるとの噂だったが「直接聞いてないし...絶対俺のほうが好きだ」といえる自信があった。大学6年来の友人に話したら「お前がそんなエネルギッシュに語るのを初めて見た」と言われた。休みの日に買い物に行くときも偶然彼女と会う奇跡を望んだし、彼女を思うと動機で眠れなかった日もあった。ついには食欲がなくなり何kgも痩せた。、恋の病にかかっているのを自覚し自嘲すると同時にまだ自分にこんな感情が残っていて、浮かれることができて毎日が楽しく、空が青いと思えることに感動した。

 

しかし、その恋は実らなかった。原因は全部分かっていた。「キモかった」からだ。

26歳、顔も良くなく恋愛経験もない根暗が急に何かに取り憑かれたように盛ったらキモいだけだ。上手な話の引っ張り方も知らない。盛り上げ方も知らない。ましてや誘い方も知らない。初めて好きになった女の愛し方すら分からないままこんな歳になったこと、好きになった女を抱く方法も分からず他の男と笑う姿が憎くて悔しくて堪らなかった。アプローチをしたときに自分で自分がキモいということに気づいていたのにそれを止められなかった。止めたくなかった。このまま中途半端にブレーキをかけてネットの浅知恵のテクニックをしたところで自分は使えないし、そこから何も学べないことも分かっていた。他の普通の人が経験することを学んでこなかった自らの罪だ。もちろん結果は駄目だった。いわゆる非モテコミットの典型例として撃沈した。

 

その後、後悔と憎しみと化した自分は暇さえあれば恋愛コラム、心理学、自己啓発の本を見ていた。その中でも自分の興味を引いたのは恋愛工学だった。恋愛工学は先の非モテコミットの出典元であり、適当な女が書いたコラムよりよっぽど自分に合ってると思った。そして、より今の時代に即した生の情報を得ようとしてTwitterのナンパ界隈に迷い込んだ。そこは出会ったその日にSEXした数を競い合いマウントしながら、モテテクニックをnoteで有料で売ったり、講習として何千円~数十万円使うような界隈だった。そんな界隈にへばりつき発言力が強い人を何十人もフォローし、2カ月ROM専していた。すると、同一人物は数週間おきに同じようなことを言ってるし、みな異口同音に同じようなことを言っていることに気が付いた。それは「モテるためには男らしくあれ」ということだった。マッチングアプリのプロフィールは有料noteを買い研究し、写真は地元や大学の友人に恥を忍んでマッチングアプリ用の写真を撮ってくれと頼みこみ、それには飽き足らず5万払いナンパ師に写真を撮ってもらった。片っ端からメッセージを送りうまくデートに誘えても会話が続かないことが多かった。デート後何がいけなかったか、盛り上がった会話をメモに書き改善を行った。PDCAを回すことで相手が変われど反応が徐々に良くなってきていることがゲームのようで楽しかった。そんなことを十何回も繰り返したときはじめて即る(会ったその日にSEXする)ことができた。達成感があったし相手はさほど綺麗ではないヤリマン大学生だったが、あなたなら彼女になってもいいよと言われたことは素直にうれしかった。しかし、彼女は体の関係以上の愛に飢えているように見えた。ナンパ師たちの方法は体の関係を結ぶことに特化している。彼女は体だけの愛ではなくそれ以上の愛を注いでくれる人に出会う為にいろんな男に体を捧げる日々を繰り返しているように思えた。「私があなたを好きになったらその責任取ってくれるの?」。ついさっき会った自分にその覚悟はもちろんなかったし、キープもしくはセフレとするのも申し訳なく感じた。ああこうやってワンナイトは生まれるのかと感じた。そして、自分はSEXではなく恋人を求めているのだということに気が付いた。

 

そんな裏で何回もデートを続けている子がいた。彼女は最初のデートから分かってほしいという欲求が強かった。彼女は不遇な青春時代を過ごした反動からか現在なにかと頑張っているようだ。きっとそれは、イーブイが異なる進化先を複数持っているのと同様に僕の違う未来のように見えた。また、起源を同じにする僕らは分かり合えるのではないかと感じていた。そして、「人は、もしくは自分はなぜ生きているのか?」その質問に即答したとき人生で初めて分かり合えるのではないかと感じ、一緒にいたいと思えた。それは初恋の時に感じた激情ではないが、あれが恋ならばこれはなんだろうか。自分の中で堂々巡りしても答えは出ないので意を決して彼女に「好きだ、付き合ってくれ」と頼んだ。

 

僕は今まで彼女がいたことがなかった。だから、関係を持続させることに不慣れかもしれない。そして、お互いのことについてまだ知らないことも多い。似ている・分かり合えると思った価値観も進化先が違うためか似ていないと感じることも多い。それを理解しあいすり合わせていくのは相応の時間がかかることだろう。それでも、僕は彼女と一緒にいたいと思っている。